空白の時間は

祖父が死んだ

 

人が死ぬというのは避けられないことであって

私もいつか死ぬだろう

そのときどうしていたいか とか

どうしてほしいか とか 

考えるけど答えは出ず

ただ最後になにを言われたいかはもうわかった

 

病室で最後に話した

 

婆ちゃんを頼むよと静かな呼吸の中

かすれた声が耳に響く

 

私は涙をこぼすまいと優しく話をしていたけど

 

これが最後の会話になると思い込むと鼻の奥が熱くなってツンと涙が溢れてきた

 

悲しくはない ただ別れることが苦しかっただけだと思い込む

 

さよなら また来るねと言い残し

 

 

 

午後9時 

とっくに面会時間は過ぎている

 

看護婦は病室から出てくる私を見て目を伏せた

 

涙が 白い廊下に落ちては 目の前が歪む

 

自ら押さえつけた悲鳴と

 

喉奥で今にも吐き出しそうな嗚咽を我慢する

 

力を入れた分だけ 涙は廊下を揺らし 濡らした

 

歩くこともままならず

 

しゃがみこむ

 

私はなにも考えることはできず

 

ただ床を見つめる