自分の声
友人と廃墟にいったっけ
あの壁一面に描かれた絵は息を呑むような迫力で
あの絵を描いた人はさぞかし満足したであろう出来で
描かれた絵は いまでもきっとあの廃墟の奥にあるのだろう
木々の間から覗く木漏れ日と
崖下から聞こえる波の打つ音と
静かにコンクリートを響かせる私の声
歩く度 砂埃が舞い 光に当たって目に映るホコリ
何かずっと待っているような底が見えない空の洞
私はここが好き
ずっと海を眺めていたい
夕暮れになれば森を出るのも困難になるだろう
その前に帰らなくちゃ
でもまだきっと時間はあるはず
タバコを口に咥えて 火をつける
メンソールの香りと有害な煙が肺の中をいっぱいにする
ため息を混じらせて吐き出した煙は
海風に揺られて静かに消えてゆく